2025年6月、長野県北部・木島平村を舞台に開催された「奥信濃100」
この大会は、トレイル率90%、累積標高約4,800m、全長100kmという数字だけでも十分にタフですが、それ以上に、奥信濃の大自然が持つ“静かな厳しさ”がランナーを試します
登りの果てに広がる原生林の静けさ
陽が傾くにつれて深まる山の気配
そして、幾度となく訪れる「もう無理かもしれない」という思いを超えるたび、少しずつ、自分が研ぎ澄まされていくような感覚
この記事では、2025年大会の様子を実際に100km部門に出場した市民ランナーの視点でお伝えしていきます
これから参加を検討している方、あるいは完走を目指す方にとって、少しでも有益なリアルな情報を届けられれば幸いです
【大会概要】奥信濃100とは?|信州・木島平村が舞台の100kmトレイル

奥信濃100は、長野県木島平村を拠点に開催される、100kmの本格山岳トレイルランニングレースです
「信越トレイル」の周辺を舞台に、ブナの原生林や古道、田園地帯など、奥信濃の多彩な自然を体感しながら走ることができるのが最大の魅力!
トレイル率は驚異の90%以上!
舗装路は最小限に抑えられており、「山を走る」ことに真っ向から向き合うレース設計となっています
大会の基本情報(2025年版)
項目 | 内容 |
---|---|
開催日 | 2025年6月6日(金)〜8日(日) |
開催地 | 長野県下高井郡木島平村 スノーリゾートロマンスの神様(旧木島平スキー場) |
メイン種目 | 100km / 累積標高 約4,800m / 制限時間 21時間 |
他の種目 | 50km(累積2,500m)/ 25km(累積1,500m)/ キッズレース |
トレイル率 | 約90%(シングルトラック多数) |
ITRAポイント | 100km:4P / 50km:3P / 25km:1P |
WSER認定 | 100kmはWestern States 100のクオリファイ対象レース |
関門ポイント | 全6箇所(27km〜95km地点まで、合計21時間制限) |
コースの特徴
- 前半(0〜60km):高社山の急登や沢沿いの粘り強い登りで一気に標高を稼ぐ。地味にきつい登りが多く、脚を残す意識が求められる区間。
- 中盤〜後半(60〜100km):長い林道区間が中心。「走れる=楽」とは限らず、脚が残っていなければ苦行のような時間が続く。ここで走れないと順位やタイムは狙えない。
- ナイトパート:主に林道主体。視界は暗く、精神力が問われるが、技術的難所は少ない。
エイドステーションでは、補給食に加え、地元特産の野沢菜や豚汁、おやきなども提供され、過酷なレース中に「ほっとできる瞬間」がちりばめられています
ボランティアスタッフや地元の応援の温かさも、奥信濃100の魅力の一つです

奥信濃100の必携品
必ず持参しないといけないものは次のとおり
- 携帯電話
- 携帯コップ
- 水分(1L以上)と各自必要な食料
- サバイバルブランケット(130cm以上×200cm以上)
- テーピング用テープ
- コースマップ
- フード付きレインウエア(ジャケット、完全防水、透湿機能を持ち、縫い目をシームテープで防水加工してあるもの)
- ファーストエイドキット(絆創膏、消毒薬など)
- 保険証(コピー不可)
- ライトと予備バッテリー(ライト2個でも可)
- 熊鈴
■携帯コップ

■サバイバルブランケット

■フード付きレインウエア


■ヘッドライト
【前日〜受付編】静かな里山に集うランナーたち|スタート前の空気感
奥信濃100の舞台・木島平村は、長野県の北部に位置する自然豊かな山里
私は大会前日の午後に現地入りしましたが、多くのランナーが集まっており、すでに「レースのスイッチ」が入り始めているのを感じました
アクセスと移動手段
公共交通を使う場合は、JR飯山駅からシャトルバスまたはタクシーで約20分
車でのアクセスも良好で、駐車場は「スノーリゾートロマンスの神様」に用意されています
私はマイカーで現地入りしましたが、道中の景色がとても印象的
自然豊かな奥信濃の雰囲気が、明日始まる非日常の冒険を予感させてくれます
会場の雰囲気と受付の流れ
会場ではすでにテントやバナーが設営されており、運営スタッフやボランティアの方々がテキパキと動かれていました
受付で受け取ったのは、
- ゼッケン
- 計測タグ
- 参加賞
受付時に必携品の一部を確認されます
2025年は、レイン、ヘッドライト(バッテリーまたは予備含む)、熊鈴を確認されました
【レース当日】静寂のスタートから、限界のその先へ|100kmのリアル
2025年6月7日、午前4時
薄暗い空の下、スタート会場には続々と参加者の車が集まってきます
あちこちで知り合いの参加者同士での談笑がきこえます
大会当日は晴天
朝の気温はまだ肌寒いですが、日中は暑くなる予想
しばらくすると明るくなり始め、レースのスタートが近づき、テンションがあがります
スタート〜高社山~スタート地点(27km):いきなり心拍MAXの急登

スタートしたらまずはスキー場を軽く一周してトレイルに入ります
第一エイドまでは比較的フラットで走れる区間
周囲のペースに合わせて淡々とトレイルを走ります
序盤はところどころ渋滞気味ではあったものの、完全に立ち止まるような混雑はほぼなく、淡々とした流れのなかで山に入っていきました
高社山への登りは、決して「登りやすい」とは言えない斜度
レースは始まったばかりでしたが、ここで勢いよく登ってしまうと後半がもたないことは目に見えていたため、私は最初からゆったりしたペースで入るように意識しました
幸いにも体力的にはまだ余裕があり、息を切らすことなく登りきることができました
高社山からの眺めは天気もよく絶景
問題はその後の下り
高社山の下りは、前半は急勾配の階段状のセクション
段差も大きく、躓いたり踏み外したりすればそのまま転倒、あるいは転落のリスクも感じるほどで、スピードを出す気には到底なれませんでした
とにかく「慎重に」「確実に」を繰り返しながら、神経をすり減らして下ります
中盤以降は傾斜が緩み、ようやく走れるトレイルへと変化
ただ、それまでの緊張感と脚への衝撃で、すでに太ももや膝周りには疲労が蓄積し始めていました
沢沿い〜カヤの平(第2関門・48km):癒しと絶望が背中合わせの静かな区間
高社山を下った後、コースはいよいよ本格的な山岳地帯へ
清流のせせらぎが聞こえる沢沿いの道へと入っていきます
自然はとても美しく、木漏れ日や緑の苔、流れる水の音に心が少し和らぎました
それでも、気持ちに余裕があったわけではありません
この区間はひたすら上るのが特徴で、終わりが見えない感覚に陥ります
傾斜自体は急ではないものの、疲れた脚にはボディブローのように効いてくる登り

いつまでたっても延々と上りが続く
ほんとメンタルをやられる上りでした
足場は思っていたよりも悪くなく進みにく感じではありませんでした
しかし体力的な限界で現実には何度も立ち止まりたくなり、「あと何分登るんだろう」と思いながら脚を前に出し続ける展開でした
メンタル的には、ここがレース中もっとも厳しかったパート
景色の美しさには癒されながらも、心の中では常に「つらい」「まだ半分も来ていない」という言葉が渦巻いていました
そして、ようやく到着したのが第2関門・カヤの平エイド(48km地点)
水分はすでに飲み切っていて、エイドに着いて最初に口にした水が本当に体に染み渡るような感覚でした
「生き返った」――まさにそんな表現がぴったりの瞬間
この時点で、まだ半分も終わっていないという現実に少し気が遠くなりましたが、一方で時計を見ると想定スケジュールよりも1時間早く到着していることに気づきました
「まだ貯金がある」「間に合うかもしれない」
そう思えたことで、少しだけ前向きな気持ちを取り戻すことができました
カヤの平ラウンド:静かな森をぐるり、気力を試される約10km
第2関門となるカヤの平エイドを出て、次のセクションは周回ルート(カヤの平ラウンド)へ
ブナの森をぐるっと回って、再びカヤの平エイドに戻ってくる約10kmのセクション
本大会で一番おすすめできるパートです
スタートしてすぐにトレイルの上りがあり、その後一気に長いダウンヒルへ
この下り自体は比較的走りやすく、脚さえ残っていれば“気持ちよく飛ばせるパート”と感じたかもしれない
ただ、実際には疲労がピークに達していて、下りでも思うように走れなかった
脚は重く、心拍は落ち着かず、走っては歩き、また走る…を繰り返す展開
気づけば、風景の記憶もあまり残っていないほど集中力も落ちていた
そして、ダウンヒルを終えたあとは再びカヤの平までの登り返し
この登りが、気分的には本当にきつかった
「また登るのか…」「戻るだけなのに、なぜこんなに辛いんだ」と、気力が削られていくような感覚
再びカヤの平エイドに戻ってきたときには、安堵と疲労がいっきに押し寄せました
カヤの平〜糠千エイド(72km地点):走れるのに、走れない


再びカヤの平エイドで補給を済ませ、次の目標となる糠千エイドを目指して走り出す
ここからしばらくは林道が中心の区間で、コース自体は非常に走りやすい
傾斜もそれほど急ではなく、路面も比較的安定しており、本来であれば「脚を回して稼ぐ」セクションだ
…けれど、現実には脚がもう残っていなかった
“走れる”はずの林道を走れない
疲労が蓄積し、太ももには張りと重さ、ふくらはぎはいつ攣ってもおかしくない状態
それでも止まるわけにはいかない
ひたすらに歩き続けた
「完走したい」という気持ちだけが、自分を前に進ませていた
ただひたすら足元を見て、何も考えずに進む
「あと何キロ?」「まだエイドは来ないのか?」
そんなことばかりをぼんやりと繰り返しながら、ゴールではなく“次のエイド”だけを目指し前に進んだ
ナイトパートからゴールへ:光の中にたどり着くまで


二度目の糠千エイドを出たあたりから、空が徐々に暗くなり、レースはいよいよナイトパートへ
ヘッドライトを灯し、ひんやりとした空気と静寂のなか、再び一人の時間が始まります
コースはほとんどが林道
足元は安定していたし、危険な場所もなかった
にもかかわらず、私は“走れる”とはとても言えない状態
脚は限界を迎え、体に余裕はまったくなかった
歩きと小走りを繰り返しながら、「止まらないこと」だけを意識して進んでいく
「ゴールしたい」
その一心で、走れなくても、止まりそうになっても、体を前に押し出し続けた
やがて、第6関門(95km)を通過
「あと5km」…しかし、そこからがまた長い
そしてようやく、スタート地点でもあったスキー場の光が見えてきたとき、気持ちは言葉にならなかった
最後のゲレンデを上り、遂にゴール!
なんとか完走を果たした
まとめ|奥信濃100は、静かな挑戦を求める人へ


完走タイム19時間20分
レースを終えてしばらくは、何も言葉にできませんでした
感動、達成感、疲労、安堵――それらが入り混じった状態で、ただ座り込み、体が冷えていくのをぼんやりと感じていました
序盤の高社山、沢沿いの長い登り、カヤの平の静かな森、そして終盤のナイトラン
思い返すとどれもが静かで、厳しくて、どこか優しい――そんなコースでした
この大会は、こんな人におすすめしたいと思います
- 派手さよりも“自然との対話”を楽しみたい人
- 走力だけでなく、心の強さを試したい人
- 走れる林道と、耐える登りの両方を受け入れられる人
終わってみて、つい「もう一度走る?」と自分に問いかけてしまう
走っている最中は「もう二度と」と思っていたのに、どこかにまた挑戦したいという気持ちがある
それが奥信濃100という大会の、静かで深い魔力かもしれません
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