「野辺山ウルトラマラソン」
この名前を聞いて胸がざわつく人は、きっと一度そのコースを走ったことがある人だろう
日本屈指の過酷さを誇るこの大会は、100kmという距離だけでなく、標高差や後半に待ち受ける容赦のない上り坂、そして気まぐれな高原の気候がランナーの心と体を試してくる
ウルトラマラソンの「東の横綱」と称される所以だ
そして、私は今年、この野辺山に昨年に引き続き2度目の挑戦をする
一度走ったからこそ、その厳しさは骨の髄まで知っている
なのになぜもう一度挑むのか?と聞かれたら、答えはシンプル
「また、あのゴールに立ちたい」と思ったからだ
1回目の挑戦では得られなかった気づきや、もう一歩先の自分に出会える気がした
このブログでは、そんな2回目の挑戦を、できる限りリアルに記録していきたい
初挑戦の人には「こういう大会なんだ」と感じてもらえたら嬉しいし、ウルトラに挑戦してみたいけれど迷っている人には、背中をそっと押せるような内容になればと思っている
これは、“東の横綱”に再び挑む、一人の市民ランナーのリアルな記録であり、自分の限界を超えてみようとする挑戦の記録である
野辺山ウルトラマラソンとは?東の横綱と呼ばれる理由

野辺山ウルトラマラソンの大会概要
野辺山ウルトラマラソンは、長野県南牧村を中心に開催される日本屈指のウルトラマラソン大会
毎年5月中旬に開催され、2025年で第31回を迎える伝統ある大会である
種目は100km、68km、42kmの3種類
中でもメインとなるのが100kmの部で、標高1,000m以上の高地、強烈なアップダウンを走り抜ける過酷なコースが、多くのランナーの挑戦意欲をかき立てている
スタートは長野県南牧村の南牧村社会体育館
そこから、小海町、北相木村、南相木村、川上村を経て再び南牧村に戻るルートを取る
2025年は昨年からコースが一部変更となっており、馬越峠への上るコースが変わり、最後に国立天文台を通るコース設定となった
100kmの部は、関門は全部で6カ所、制限時間は14時間
朝4:55にスタートし、ゴールの制限時間は18:55となる(第一ウェーブの場合)

野辺山ウルトラマラソンの必携品
必ず持参しないといけないものは次のとおり
- マイボトル
- マイカップ
- ナンバーカード(胸用、背中用、安全ピン8本付き)
- 計測タグ(両足にそれぞれ装着)
- 荷札(荷物預けする方のみ)
野辺山ウルトラマラソンで自分で必ず準備しないといけないものは、マイボトルとマイカップの2つです
私はサロモンを愛用していますので、紹介しておきます



他にも補給食やジェルなど、100km走破にあたって必要なものを各自準備してください
「東の横綱」の所以
では、なぜこの大会が「東の横綱」と呼ばれるのか?
最大の理由は、コースに仕掛けられた容赦のないアップダウンだ
累積標高差は2,000mを超え、何度も脚を削られる
特に70km過ぎに待ち受ける「馬越峠」の上り坂は、ほぼ歩くしかないような傾斜で、多くのランナーを苦しめる最大の難所として知られている
さらに、高地ならではの気候も試練となる
気象条件によってはスタート時は0〜5℃の冷え込みでも、日中は25℃を超えることもある
高原の直射日光と寒暖差が体力をじわじわと削り、補給や装備の選択を間違えれば一気にペースが崩れる
当日の天候に合わせた100km全体のレースメイクが求められる



今年は雨予報が一転、非常に天候に恵まれました
その結果、逆に暑さにやられてしまいましたね
その一方で、コース中に広がる雄大な八ヶ岳の景色や、地元住民の温かい応援、豊富なエイドステーションなど、走る者の心を支える要素も多い
野辺山ウルトラは、ただ完走するだけでも価値があるとされるレースだ
だからこそ、“東の横綱”という称号がふさわしいのだろう
当日レポート&リアルレビュー
スタート前|静けさと高鳴り、再挑戦の朝


朝5時前のスタートを目前に控えた野辺山
標高1,000m超の高原の朝は少し肌寒かった
けれど、数日前の雨予報も一転し、晴れそうな空
予報では日中の気温がかなり上がるとのこと
スタートゲートや南牧村市民体育館には、すでに多くのランナーが集まっていた
仲間と談笑している人、一人で黙々とウォームアップする人、写真を撮っている人
100kmという果てしない距離の前に、それぞれの「挑戦者の顔」がそこにあった
独り身の私はひとり淡々と準備運動
しかし、自分にも明確な目標を今回は設定した
昨年の自分を超えて、できれば13時間を切るというタイムを出したい
昨年は制限時間ぎりぎりの私にとっては簡単な目標じゃない
今回、13時間を切るというのは、自分にとってはまさに“高い壁”への挑戦となる
そして4時50分、WAVE Aのスタートを見送る
いよいよ始まった
自らもスタートラインに整列し、5時10分の号砲を待つ
さあ、今年もこの長くて険しい100kmの旅が始まる
レース前半戦|コース最高地点まで上り、ダウンヒルを楽しむ


スタートしてしばらくは、まだ身体が軽く、ペースを抑えるのが難しいくらいだった
沿道の応援を受けながら緩やかな坂を登り、やがてコースはじわじわと標高を上げていく
そして10km付近、コースが砂利道に変わる
いよいよ最高地点に向けた上りが本格化する
この砂利道は本当に走りにくい
トレイルランニングかと思うほどのコース
無駄にパワーをロスしないよう、足のおく位置を考えながら進んでいく
ようやく標高1,900m近くにある野辺山ウルトラのコース最高地点に到着
まだ脚には余裕があり、呼吸も乱れていなかった
「いいペースだ。しっかり余裕をもっていこう」
そんなふうに自分に言い聞かせながら、一歩一歩を丁寧に積み重ねる
最高地点を越えると、そこからは一気に下り基調
自然とスピードに乗り、風を切る感覚が気持ちよく、足取りも軽やかになった
要所にある登り坂では無理をせず、迷わず歩きを選んだ
野辺山で大切なのは、“進むスピード”よりも“足を最後まで温存すること”だという教訓が、去年の記憶から身体に染みついている
標高が下がるにつれ、気温がじわじわと上がってくるのを感じた
朝方の肌寒さはすでに遠く、汗が流れる
水分補給の重要性を痛感し、エイドではこまめに水やスポーツドリンクを摂るように心がけた
やがて中間点が近づく
タイムを確認すると、昨年より15分ほど遅れていた
でも不思議と焦りはなかった
脚の疲労も思ったほどではないし、なにより自分のペースでしっかり走れているという実感があった
中間点のエイドでは、昨年と同じく恒例のそばを一杯すする
そばとつゆの香りが、疲れた身体と心に沁みわたる
まだ、旅は半分
ここからが本当の勝負だ
レース中盤戦|徐々に削られる脚と心、こんなはずじゃなかったのに


中間点を過ぎても、足取りにはまだ余裕があった
昨年はこのあたりからすでに歩きが増えていた記憶があるが、今年は違った
脚も回り、呼吸も安定している
補給もこまめに取れている
何より、50kmを過ぎてもまだ「走れている」感覚があることがうれしかった
「もしかしたら、いけるかもしれない」
そんな手応えすら感じながら、淡々と前に進む
だが、ウルトラマラソンは甘くない
突然、その瞬間はやってきた
走り出しは快調だったのに、ある上り坂を前にしたとき、脚が言うことを聞かなくなった
さっきまで平地をしっかり走れていたのに、ちょっとした上りを前にすると急に足が重くなり、止まりたくなる衝動に襲われる
「こんなはずじゃなかったのに」
そう思いながらも、体は早々と歩きを選択している
不思議と心がざわつく
補給はしている、エイドにも寄りかぶり水で体温を下げようとしている
でも急に疲れが押し寄せてくる
体力的だけではなく、メンタルにも小さなほころびが出始める
「ここでこの疲労なら、馬越峠はどうなるんだ」と、不安が頭をよぎる
それでも立ち止まらない
走れなくても、歩きながらでも、着実に進む
エイドで立ち止まり、冷たい水を浴び、スポーツドリンクを口に含むたびに、わずかでも気力が戻ってくるのを信じていた
この中盤戦は、ただの移動距離ではない
“走れている自分”と“崩れそうな自分”の間で揺れ動く時間だった
レース終盤戦|立ちはだかる馬越峠、満身創痍でゴールを目指す


70kmを超えると、いよいよこの大会最大の関門――馬越峠が近づいてくる
ここを越えればゴールが見えてくるという安心感もあるが、それ以上に、この峠が“東の横綱”たるゆえんであることを思い知らされる
やはり、上りは半端なくきつかった
最初から走るつもりはなかったが、実際の傾斜を前にすると、走るどころか歩くのもやっと
呼吸は上がり、脚も重い
同じく歩いている人にですら、どんどん抜かされる有様
ようやく馬越峠にたどり着き、そこからは下り
だが、太ももに痛みが走り、思うようにペースが上がらない
前半の下りでは気持ちよくスピードに乗れていたのに、ここでは勝手が違う
周囲のランナーが軽やかに下っていくのを横目に、自分はただ、衝撃を最小限に抑えるようにゆっくりと脚を運ぶしかなかった
そして、地味に苦しいのが90kmからの残り10km
上り基調でコースは単調
景色も変わらず、ランニングウォッチを何度見ても進んでいないように感じる
制限時間に対して、精神的な焦りも出てくる
「1kmラップでこれだけ時間がかかるとゴール時間は…」
目標の13時間切りをついさっき馬越峠で断念した
だけにすまず、まさか完走すら危ういのでは?と時計とにらめっこしながら、自分に言い聞かせる
「止まるな、前に進め」
ゴールが近づくにつれ、会場のアナウンスも遠くの方から聞こえてくる
「あと少しでゴールだ」
言うことを聞かない脚を無理やり前に出し、一歩一歩ゴールに進むしかなかった
そして、フィニッシュ
その瞬間、全てが報われた気がした
タイムは、13時間42分
目標の13時間切りには遠く及ばず、昨年と比較してもわずか10分早いだけ
確かに反省点はいくつか思うところがあるが、でもそれ以上にゴールという達成感に今は満たされている
関連YouTube動画
まとめ|あなたも「東の横綱」に挑んでみてはどうだろうか?


野辺山ウルトラマラソンを再び走って、あらためて思ったのは――
やはりこの大会は、ただの100kmではないということだ
コースの厳しさ、高低差、天候、そして終盤に訪れる「心の壁」
どれをとっても、挑戦者の力を問うように用意された“試練の舞台”だった
しかしそれと同時に、この大会には他にはない特別な温かさがある
地元の応援、ともにゴールを目指すランナーとの一体感、そしてゴールしたときの言葉にできない達成感
それらすべてが、野辺山という特別な大会を形作っている
完走できた人にも、できなかった人にも、それぞれの物語がある
だからこそ、私は声を大にして言いたい
「自分なんかには無理かも」と思っている人こそ、挑戦してみてほしい
走りながら、自分と向き合いながら、ひとつひとつ壁を越えていってほしい
この“東の横綱”は、確かに簡単な相手ではない
けれど、それに立ち向かった者だけが見られる景色がある
次にこの道を走るのは、あなたかもしれない



来年も再び挑戦すると思います
いつまでも今の自分を超える挑戦を続けていきたい
個人的なレースの振り返り
今回の野辺山ウルトラマラソンの目標は13時間切り
昨年の反省を活かして前半は抑え、後半の馬越峠以降でも走り続けるのがレースプラン
結果は前述したとおり13時間42分
前半は予定通りのキロ7分ぐらいのペースで余裕をもって進んでいた
体も全然余裕で、とてもレースを楽しめていたと思う
でも今思えば、下りが楽しくてペースが勝手にあがってしまったので、ここで無駄に脚を使ってしまっていたかなと
その結果、50km以降は徐々に歩く頻度が増え、ペースが落ちてしまった
馬越峠の上りに入って以降は、さらにキロ10分前後と一気にペースダウン
下りで巻き返そうかとも思ったが太ももの痛みと左ひざに違和感を感じ始めたのでペースも上がらず
そのまま何とか足を前に出しつづけ、ゴールにたどり着いたという感じ
やっぱり野辺山は甘くないな、と改めて感じたレースだった
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